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治療と仕事に揺れるとき、そばにいる専門家----キャリアコンサルタント(キャリア支援)という選択肢

2025.07.22テーブル活動紹介

●キャリア支援の専門家たちが向き合う"治療と仕事"のリアル
「がんになっても働きたい」----そんな思いを抱える人に、どんな支援ができるのか?

国家資格キャリアコンサルタントの職能団体である一般財団法人ACCN(以下「ACCN」)には、会員が自主的に研究や実践を行う「テーブル活動」があります。その31番目のグループ「テーブル31」は、「がん治療者の就労支援とキャリアコンサルタントの関わり」をテーマに、2023年から活動を続けています。

キャリアコンサルタントというと、一般的には就職・転職支援のイメージが強いかもしれませんが、このテーブルに集うメンバーには、がんを経験したキャリアコンサルタントや、医療・福祉・労務の現場に関わる実務家がおり、自身の体験や想いをもとに、がん治療と就労の両立支援に向き合っています。

今回、そんなテーブル31の有志7名が、がん患者の就労支援に10年以上取り組んできた「一般社団法人 仕事と治療の両立支援ネット-ブリッジ」(以下「ブリッジ」)の代表・服部さん、加藤さんと対話の場を持ちました。

●「働くこと」と「生きること」を支える支援とは
「治療で心身が揺れるなかでも、"自分らしく働きたい"と願う人は多いです。けれど、現実には体調の波や企業との関係で悩みを抱える方が大勢いらっしゃいます。」

そう語るのは、ブリッジ代表の服部さん。2012年のがん対策推進基本計画で「がん患者の就労支援」が明記されたことをきっかけに、名古屋を拠点に活動を始めました。

個人の相談に加え、医療機関や企業、支援機関と連携しながら支援を展開。地域の医師や看護師、産業医らと立ち上げた「がん就労を考える会」のように、専門職が領域を越えて協働する場も築いてきました。患者一人ひとりの「これから」に伴走する支援を模索し、広げています。

●支援は"理屈"ではなく、"共に考える"ことから
「"答えは相談するあなたの中にある"----。キャリコンの世界ではよく聞く言葉ですが、病気によって心身の前提が変わった人にとって、それを探し出すのはとても難しいことです。」

服部さんがそう語るのには、理由があります。
がんを経験すると、実は身体だけでなく心の在り方も変わります。これまで当たり前にできていたことができなくなったり、自信が持てなくなったりすることがあります。「自己理解を深めましょう」「ご自分のことを認めてあげましょう」と言われても、自分自身の変化を受け入れることは、実際には簡単なことではありません。

そんな時にこそ、キャリア支援者の"伴走"が必要だと服部さんは語ります。
「誰かと一緒に考えることが、前に進む力になります。変わりゆく自分とどう向き合い、どんな風に社会とつながるか----この世界のキャリア支援とは、変化を体験したその人の"社会とのこれから"を一緒に考えることなんです。」

●「企業とのすれ違い」を埋めるキャリコンの可能性
意見交換では、企業との関係性も大きな論点となりました。
「がん治療では、治療の影響で"働ける日"と"働けない日"があります。でも、それを企業にうまく伝えられないことがあるんです。」そんな課題がテーブルのメンバーから挙げられました。

一方で、企業は「安全に働けるのか」「無理をさせていないか」と不安を抱きます。双方が言葉にできない不安を抱えたまま、関係がぎくしゃくすることもあります。

その"翻訳"を担えるのが、キャリアコンサルタントではないかという声が上がりました。

「本人の気持ちや状況を整理し、企業と丁寧につなぐ"橋渡し役"が求められています。本人の復職支援だけでなく、企業の不安や職場の調整にも伴走する支援が必要なんです。」

実際、服部さんたちは企業に同行しての面談や、医療機関との連携調整まで行っています。こうした一歩踏み込んだ丁寧な支援こそが、持続可能な両立支援の鍵を握ることになります。

●支援の質を担保するために----キャリコンへの期待
「私たちだけでは、全国のニーズには応えきれません。」

そう語る服部さんは、より多くのキャリアコンサルタントにこの領域に関心を持ってもらうべく、両立支援ナビゲーター養成講座やこの領域での国家資格キャリアコンサルタント向けの講習を開始し、医療や福祉の分野にまたがる支援ができる人材の育成にも取り組み始めています。

「まずは"この領域のことを知ってもらう"ことが大切です。たとえば、ハローワークや大学のキャリアセンターで、がんを経験した人が相談に行っても、『がんのことは分からないので』と相談できないようなことが実際にあるんです。」

そうした"最初の出会い"の質で人生の選択が左右されない世界を目指しています。

テーブル31でも、この領域の学びを通じて、他のキャリアコンサルタントとの連携や、地域の医療・福祉機関との協働を模索しはじめています。

●「仕事」だけでなく「人生」を支える専門職として
「キャリアコンサルタントの仕事は"就職の相談"にとどまりません。働く人が人生をどう生きるか----そこに寄り添う専門職なんです。」

がんに限らず、慢性疾患や障がい、育児・介護など、人生には様々な転機が訪れます。そうしたとき、「自分らしい生き方・働き方」を共に考える存在が必要となります。

「テーブル31」のメンバーや代表の野村さんはこう語ります。
「医療現場では、キャリコンの存在さえもなかなか認知されていない現実が今はあるのかもしれません。だからこそ、この領域を学び、広げていきたいです」
「私たちはまだ"手探り"の段階。でも、実践の中でこそ学びがあると感じます。ブリッジさんのような先駆者とつながることで、キャリコンのいろいろな役割を社会に広げていければと思います。」

ブリッジの加藤さんも「これだけの多様なキャリコンが、両立支援に具体的にどう関わっていこうかを真剣に考えていることに励まされました」と語りました。

●最後に----「誰ひとり取り残されない社会へ」
「治療を経て職場に戻れた人だけが"支援された人"では意味がありません。がんになっても、安心して社会とつながれる仕組みが必要なんです。キャリコンが関わることが"仕組み"として広がってほしいと思います。」

ブリッジの服部さんは、こう締めくくりました。

支援のゴールは「復職」だけではありません。変化を受け入れたその人が、自分らしく生きられる場所を見つけること。

キャリアコンサルタントの役割や可能性は、まだ社会の中で十分理解、認識されているとは言えません。けれど今、こうした"温かい、意志ある挑戦"が、少しずつ医療や企業とつながり始めています。

「働きたい」人の声がきちんと届く社会へ。
キャリアコンサルタントの力で、その一歩を支えていこうとしています。

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<団体紹介>

一般社団法人 仕事と治療の両立支援ネット-ブリッジ
がんをはじめとする疾病を抱えながら働く人々が、安心して治療と仕事を両立できる社会の実現を目指す団体です。医療・企業・支援者など多様な立場の専門職が連携し、本人の意思を尊重した両立支援の在り方を探求・実践しています。個別相談や研修、制度づくりのサポートなどを通じて、「誰もが自分らしく働ける」職場環境づくりに取り組んでいます。
https://bridge-nagoya.jp/

一般財団法人ACCN
全国のキャリアコンサルタントが交流し、学び合い、高め合いながら活動する機会を創出するために設立されました。ACCNは、自律的に活動するキャリアコンサルタントを多面的に支援し、意欲ある全てのキャリアコンサルタントの挑戦や成長を後押しするとともに、社会課題に共に向き合っていける団体を目指しています。
https://www.allccn.org/
テーブル活動について https://www.allccn.org/activities/entry000501.html


〇 テーブル31
:参加メンバーの感想
「服部さんの行動力、そしてキャリア支援と治療を自然に結びつけていく姿勢に、深く学ばせていただきました。  
キャリアコンサルタントの資格が、社会と関わるための「入り口」にも「架け橋」にもなり得ることに気づき、その可能性の広がりに心が大きく動かされました。  

何より印象的だったのは、「支援を社会のしくみに息づかせる」という服部さんのビジョンです。支援の現場にとどまらず、制度や仕組みづくりへと意志を広げていくその志の大きさに、大きな衝撃を受けました。  
服部さんの姿勢に触れることで、私たち自身も「支援のあり方」や「社会との関わり方」について、もっと自由に、もっと柔軟に見つめ直したくなりました。」

  私たちTable No.31は、「がん治療と就労の両立支援」をテーマに、キャリアコンサルタントとしての専門性を活かした実践的な支援の可能性を探求しています。
今後の取り組みとしては、以下の3つの柱を中心に活動を進めてまいります。

1.    医療従事者・医療機関で働くキャリアコンサルタントとの連携構築
医療現場における支援ニーズを把握し、実効性の高い協働モデルの構築を目指します。

2.    医療現場で働く人へのキャリアコンサルティング/医療機関におけるセルフ・キャリアドックの実態調査
医療現場で働く人のキャリア形成支援の現状を明らかにし、患者支援との相乗効果を考察します。

3.    患者支援団体など関連団体への調査・ヒアリング
がん治療経験者の声を反映した支援の在り方を、現場目線で設計していきます。
多様な立場の当事者に寄り添いながら、医療・福祉・企業支援の接点をつなぎ、「治療と働くことの両立」に希望をもたらす支援のかたちを、社会に発信していきます。

〇テーブル31への参加を希望されるキャリアコンサルタントの方は、会員マイページ「ACCNテーブル」のテーブル31「このテーブルへの参加を希望する」からご連絡をお願いいたします。


ー みんなの「生きる」をキャリアでつなぐ。ACCN ー

ACCN事務局 info@allccn.org


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